アピール文から読み解くWCSC27の見どころ(うさぴょん2’TURBO編)
久々のシリーズ物として、WCSC27に参加しているソフトのアピール文を、私、Qhapaqの開発者が読解/解説していきたいと思います。本シリーズを通じて、皆様がコンピュータ将棋を好きになってくれれば、そして、人工知能の織りなす科学を楽しんでいただければ幸いです。
前回記事:アピール文から読み解くWCSC27の見どころ(読み太編) - qhapaq’s diary
注:以下の考察はQhapaq開発者の予想です。開発者に確認をとっているわけではありません。あくまで参考として楽しんでいただけると幸いです。
・伝統と独自性を両立するソフト うさぴょん
うさぴょんのアピール文:
http://www2.computer-shogi.org/wcsc27/appeal/Usapyon2'TURBO/wcsc27-usapyon.txt
うさぴょんシリーズはコンピュータ将棋ソフトの中でも古い歴史を持つソフトです。開発者の池さんはSNSや書籍などでコンピュータ将棋に関する解説を行っており、開発者の多くは池さんのお世話になったことがあると言えます(かくいう私も、WCSC初参加の時は池さん(となのはさん)には大変お世話になりました)。
WCSC26では決勝リーグ進出、sdt4では決勝トーナメント進出と強力なソフトの一つでありますが、毎回挑戦的な試みをしてくれるソフトでもあります。今回は巷で話題になったryzenを使って来るそうです。
以下、うさぴょんが今季ピョンピョンできるのか、検証してみたいと思います。
・Ryzenって結局強いの?
RyzenとはAMDから販売されたCPUの名称であり(Ryzen - Wikipedia)、早い安いを強く押し出した作品となっています。早くて安いCPUであれば低予算で強い将棋ソフトが作れると言いたくなりますが、現実はそう甘くはありません。
Ryzenのベンチマークについてはいろいろな記事がありますが、個人的には(RyzenとCore i7 7700Kのベンチマーク比較 ゲーム用ならRyzen、作業用なら7700K | ITハンドブック)がよくまとまっていると思います。ざっくりいうと、動画処理などの解りやすい並列化以外の並列化の挙動が怪しい(効率的に並列化できてない)可能性が指摘されています。
LazySMPにおいて、Ryzenの並列化周りの弱さが響くかは定かではありませんが、開発者達による解析によると、いくつかの命令に地雷が含まれている気がしてなりません。池さんにはぜひ、うさぴょんのNPSがRyzen vs corei7でどうなったか教えてもらいたいところです。
いやPEXTだけならAperyも遅くなるはず。
— wain@CGP作者 (@wain_CGP) 2017年5月2日
と思って読み進めたらgatherがものすごく遅い。
ということでRyzen向けにするならマジックビットボードにする+gatherは使わないようにしましょう。
・まさかの振り飛車
うさぴょんのアピールで目を引くのが振り飛車を指せる定跡を作るという点です。振り飛車は藤井システムが綺麗にハマれば居飛車に対抗できることは示唆されてはいますが、コンピュータに特定の戦型を振り飛車で狙わせることは容易ではなく、また、少しでも定跡からずれると弱く(振り飛車の対居飛車勝率は4割程度)なるのでいろいろ地雷が多いと思います。
・Qhapaq的総評
ボナメソ+rootstrapで評価関数をゼロから作りなおそうとするなど、長年挑戦的な試みを続けているうさぴょんは私が最も尊敬しているソフトの一つです。sdt4ではうさぴょんの振り飛車に居飛車穴熊でQhapaqが負けるという悲劇を味わったので、今度こそ居飛車の強さを魅せつけてやりたいところです。