金田一少年の事件簿の犯人当てマニュアル

※ マニュアル自体にはネタバレ要素はありませんが、実践編はネタバレがあります。ご注意ください。

 

金田一少年の事件簿は累計一億部を超えたミステリー漫画の金字塔とも言える作品です。長編漫画だけでも50以上の事件に巻き込まれ、数百人規模の死体と50人以上の犯人の悲しいストーリーを目にしてきた金田一少年ですが、そのストーリーを俯瞰してみると犯人の人選に規則性があることが解ってきます。

 

本稿では小学生時代から金田一を読み続けてきた重度の金田一ヘッズである筆者が金田一の犯人あてをやる際につかうテクニックを、本編のネタバレを含まない形で紹介していきたいと思います。因みに筆者は下記のトリックで犯人当てクイズに十連勝中です。

 

トリック1.異変を発見したヤツが犯人

密室殺人や不可能殺人は登場人物の恐怖を煽る矛であると同時に犯人を守る盾でもあります。しかし、綿密なトリックの中には犯人自らが登場人物を誘導しなければならないものも少なくありません。数ある誘導の中でも最も典型的なのは死体や脅迫状を見つけて大声で叫ぶことです。手元の調査では35件中9件の事件において犯人はトリックなどへの必要性などから死体(またはそれに類するもの)の第一発見者をやっています。犯人探しの王道とも言える技です。

 

トリック2.場を提供したヤツが犯人

計画殺人を行うにあたり地味かつ極めて面倒なのが被害者(+必要に応じて探偵役)を一箇所に集めることです。また、密室殺人や不可能殺人を行うにあたり事件現場特有の仕掛けが重要な役割を持つことは多々あります。こうした背景から金田一たちを集めた人物、部屋割りなどを決めた人物が犯人である可能性はかなり高いです。手元の調査では35件中8件の事件において世話人が犯人をやっています。死体の発見者と違って世話人は一事件につき基本一人なので命中率という観点では一番強力(かつ決まると悲しい)なトリックと言えます。

 

トリック3.色恋沙汰周りの敵討ちを疑う

金田一の犯人の動機の多く誰かの敵討ちなのですが、かなりの確率で男の犯人は女の、女の犯人は男の敵討ちをしています。手元の調査では35件中27件が故人に対する敵討ちであり、故人が個人であるケース(故人が複数居るケースなどを除外)については15−4で性別が異なるケースが多数派です。

 

トリック4.地の利があるやつを疑う

事件現場特有の仕掛けを使った殺人が行われた場合、犯人は現場における地の利があることになります。事前に入り込み調査したという設定もありえますが、例えば、事件現場が屋敷などである場合、犯人がそこに長く滞在している可能性は高いです。容疑者の大半が屋敷に長く滞在してるケースも多いですが、屋敷に初めて来た型の人物はかなり白いです。

 

トリック5.某ライバルが出てくる事件では犯人が口を滑らせる確率が急増する

犯人しか知らないことを口走ってしまい探偵に疑われるのは探偵モノではあるあるですが、金田一シリーズでは意外と少ないです(手元の調査では6件)。しかし、発言ミスによる犯人の発覚は某ライバル殺人鬼が絡む事件になると急増します。手元の調査では5件中4件で本来知らないはずのことを口走ったことが犯人特定の要となっています。トリックの仕様上、発言から犯人を特定させるほうが楽とは言え、ちと雑すぎでは......?

 

トリック6.ビジュアルの悪いやつはだいたい白い

物語の終盤で犯人の可哀想なストーリーを展開していく上でビジュアルに恵まれないキャラは涙を誘えないからなのか犯人である可能性が低いです。おばはんは若かりし頃が綺麗な可能性があるのであんまり白くないですが、おっさんは出場回数(そして死んだ回数)に比べると白いです。昔語りをする必要性から老人は結構な白要素です。

 

トリック7.露骨に怪しいやつは寧ろ白い

こいつが過去を語りだしたら画になるかを意識して、画にならなさそうなキャラの推理は後回しにしましょう。あからさまに電波な人物が過去を語りだして悲壮感が出るでしょうか。一人過去の因縁に浸るシーンが既に描かれてしまっている人物の過去語りは既視感を避けられるでしょうか。金田一シリーズの事件は過去語りまで含めての作品です。トリックと同じように丁寧に扱いましょう

 

トリック8.トリックは被害者と犯人の5W1Hに注目しよう

金田一シリーズでは全貌を解明するのが不可能なトリックが多々現れます(コマ割などの関係で情報が足りない、物理的にそもそもありえない、google検索でひどいがサジェストされる etc)。そこで、トリックの全貌を暴いて犯人を当てようとするのではなく、事件前後の被害者の5W1Hに注目しましょう。死体の消失やアリバイトリックの全貌がつかめなくても、「どうやらここは遠隔操作で行けそう」、「この鍵は突破できそう」と言った要領で被害者と犯人の取りうる経路がわかれば犯人候補を絞り込むことができます



各種トリックの使い方:

外部の環境(トリック2,3,4,6,7)から犯人を絞り込み、犯人候補の事件前後の挙動を詳細に読み解く(トリック1,5,8)ことで事件の全貌を明らかにしていきます。犯人命中率の高いトリック1〜3が主軸に、トリック4〜8でサポートをしていく感じです。

以下に具体例を紹介してきます。Good Luck 名探偵君!

 

実践編:雪鬼伝説殺人事件

注意:ここから先は金田一少年の事件簿R、雪鬼伝説殺人事件のネタバレを含みます! そのため、文章そのものを白抜きにしてあります。



金田一と美雪はうぇぶすれっどが企画するスキーイベントに招待される。イベントにはランダムに選ばれたモニターがやってくる

→ トリック2を使えばこの時点で犯人がイベントの最高責任者(うぇぶすれっど社長)であろうと予想がつきます。イベントが2回も遅延されたという美雪の発言と組み合わせると、どうせ天候を利用したトリックを使うんだろと予想もついてしまいます。

 

・参加者の一人(雲沢)が何者かに襲撃される

犯人の姿が映っていないことを考えると、何らかの仕掛けを使って殺害した可能性がある。イベント運営側の黒度上昇

 

・雲沢が行方不明になる。雪に残った足跡的に全員にアリバイがある。無線機も壊され天候も悪いため、建物に閉じ込められてしまう

天候を利用したアリバイの時点で先程のイベント遅延と組み合わせて犯人が社長であるとほぼ確信できます

 

・二人目の被害者が現場近くの倉庫の棺桶から発見される

→ 死体の発見は社長秘書が行っています。社長と秘書の二択にする気満々すぎひんか? この辺から他の参加者は漫画的にも空気になってしまいます。

 

・社長の命令で被害者の棺桶をしまう。その後、二人目の被害者が死んだふりをしていたのではと言う議論になり、倉庫に戻って棺桶を開けるも死体が消失している

→ 棺桶か倉庫にトリックがあると予想できる。それができるのは運営側だけだし、棺桶をしまう命令をした点を加味するとやはり社長が黒い

 

・二人目の被害者(鯖木)のパソコンから、うぇぶすれっどの過去のイメージガールの炎上事件が発見される

→ 今回は若いおにゃのこの敵討ち。となると犯人は男である可能性が高い。まあ、社長も秘書も男で役には立たないが。

 

・鯖木パソコンを自室で解析している美雪が犯人に襲われ、パソコンが壊される

→ 鯖木のパソコンを美雪の自室で解析していたにもかかわらず、社長はそのパソコンを鯖木のものであると言及する。もう駄目やんこの人

 

・山の上から事件現場のコテージを見下ろして金田一が違和感に気付く

→ コマ割的にトリックの種が見えるかは怪しいが、コテージのギミックを使った何かであることは察しがつきます。コテージのギミックを使える人物となると運営側の人間になるし、遠隔殺人が可能なら社長秘書のアリバイは意味をなしません。

 

予想:社長が犯人。そもそもイベントの成り立ち自体が怪しすぎる。ここまで怪しいと逆に外れてほしくなってくる

 

結果:しっかり社長が犯人で幕を閉じる。炎上事件に巻き込まれたアイドルの彼氏だったのでその復讐をしたかったらしい。因みに雲沢の殺害は雲沢のコテージを遠隔操作でコテージごと氷の池の下に沈めるというやべえやつでした。色々無理があると思う......

 

トリック2が強力に刺さりすぎて事件が始まる前から犯人が確信できてしまいましたが、それ以外にもここで紹介したほぼ全てのトリックが使えるという意味で永字八法的な美しさのある事件でした。多分