2022年1月時点で最強(多分)の飛車を振る評価関数を公開します
昨日の順位戦で嬉しいことがあったので評価関数を公開します。水匠5に対してQPDの教師データによる追加学習を施したものです(ので、この関数が強いのはほぼたややん氏のおかげです)
ダウンロードはこちらから
関数名はSuisho-Qhapaq-MixtureZ関数です。略してスク水(SQMZ)関数とでもお呼びください。飛車を振る確率が高い関数(pearl)と、レーティングを高くするために振り飛車率を下げた関数(dia)とがあります。
【強さ、振り飛車率】
最新のレーティングはこちらから。
pearlバージョンは30%程度の確率で飛車を振ってくれます。QPDとほぼ同等の強さ+振り飛車率が向上(20%→30%)ので実質的に強くなったと言えると思われます。diaバージョンは水匠5とほぼ同程度のレーティングでありながら5%〜10%程度の確率で飛車を振ってくれます。持ち時間が長いと居飛車率が上がるようですが......
【補足トリビア】
やねうら王7の評価関数としてお使いください。FV_SCALEを24にすることも忘れないでおいてください。
QPD vs 水匠4のときよろしく、vs振り飛車性能の高さからdiaバージョンは水匠5よりも高いレーティングが出ていますが誤差の範囲だと思います。ちなみに中の人は自分が出した関数が微妙な差でsotaになると気まずいので早く負けてくれと思ってます。
【振り飛車の一例】
「居飛車をやろうとおもったけど、中飛車にしたうえで26の歩は銀冠に使うよ」みたいな主体性のない振り飛車を指します
Qhapaq Pretty Daabiの評価関数と教師データを公開します
第2回世界将棋AI電竜戦お疲れ様でした。Qhapaqチームは本大会に「Qhapaq Pretty Daabi(チーム名:トレセン学園将棋部)として参加し、大会総合成績15位+振り飛車最強賞+独創賞をとることができました。
参加、視聴、寄付、運営など本大会を支えてくれた全ての方々への感謝の気持を込めてQPDの評価関数を公開いたします。
【評価関数のダウンロードはこちらから】
今回の評価関数はオールラウンダー型です。状況に応じて居飛車と振り飛車を使い分ける設計になっています。 やねうら王6.3による vs 水匠4での勝率、及び、振り飛車率(飛車を28から58/68/78/88に動かした棋譜の割合なのでガチの振り飛車じゃないのも含まれてるかも)は以下のとおりです。
各ソフトとの対局結果はQhapaqのHPからもご参照いただけます。一瞬とはいえ(?)SOTAを更新しました。なお、QPDの評価関数名がfuri1016になっていますが、これは開発上の都合によるものです(QPDの誕生日は10月16日だったという話ですな......)
【QPDの教師データ(ステマ配合の元)】
今回はさらにQPDの学習に用いた教師データと学習ログも共有します。皆で飛車を振りましょう。なお、本データには利用規約があることにご注意ください。利用規約は凄く雑に言えば、「これを使って学習した評価関数を大会に出したり公開する場合はデータを使った旨を書いてくださいね」というものです。QPDのデータがどのように使われたかを開発者が知りたいから用意したものです。皆様の自由な創作を妨げるためのものではないので、困った場合は開発者にご相談いただければ、できるだけご希望に添えるようにいたします。
【教師データのダウンロードはこちらから】
本大会ではディープ勢に対して振り飛車で一度も勝つことが出来ませんでしたが、皆の力を合わせれば次こそ振り飛車でディープ勢をボコることができるでしょう。
今後共、Qhapaqチームとコンピュータ将棋をよろしくお願い申し上げます。
棋力ゼロでも棋戦解説はできるのか(実践編)
第二回電竜戦にQhapaq Pretty Daabiで参加しました。前回の大会で3位入賞+最強振り飛車ソフトの称号をゲットしたことに味をしめ、今年も振り飛車ソフトで参加しましたが想像以上にボコボコにされて予選落ちをしてしまいました。
さて、振り飛車が負けたときに備えて本大会では将棋ソフト開発以外の事業にも手を出してみようということで、将棋解説用のGUIエンジンを作ってみました。
将棋の手の意味を理解する上で主に用いられる情報は「その手の代わりにパスを指したらどのような変化になるか(≒相手の狙いは何か)」や、「その後の手の進行においてその手の有無で評価値がどの程度変わるか」です(詳しくはPR文章にも記載)。
これらの情報をユーザがリアルタイムで得られるようにすれば棋力ゼロの開発者でも将棋実況解説ができるのではないでしょうか、やってみた結果がこちらです。
これは第2回電竜戦【予選リーグ】 2回戦☗Qhapaq Pretty Daabi-☖二番絞り(ビール工房HFT支店)の終盤で出てきた局面の解析結果です。後手の二番絞りは上の局面で94歩と端歩をついてきましたが、その意味がイマイチわかりません。先手が8筋から攻撃を仕掛けてくる中でなぜ端歩なのでしょうか。
それを明らかにするために、94歩の代わりにパスを選んだ場合の変化をみてみましょう。
ここからさらに変化を見ていくと、71飛、83歩成、同歩、同飛成と進んでいきます。仮にここで94歩入っていたらどうなるでしょう。
94歩が入っていると飛車の逃げ道が増えているのがわかります。そして、先程の変化に比べ93に飛車を逃がす変化は評価値的に見ても470ぐらい得(先手+180→後手+290)しているのがわかります。94歩は飛車の逃げ道を増やすための手だったのです。
実戦の変化では94歩が指された結果、65桂打の変化が先手にとって望ましくなくなったため、先手は別の手(65桂馬の代わりに84飛車)を指したため、94歩の意味は棋譜を眺めるだけでは理解するのが難しくなっていました。
しかし、様々な手順をインタラクティブに表示することで棋力が少ないプレイヤーでも手の意味を理解しやすくなっているのがわかります。
【ニコニコ生放送をやってみた】
このツールを引っさげてニコニコ生放送で中継、及び反省会をやってみました。改めて見ると私が非常にテンパっているのがわかります。また、電竜戦でのソフトの指しては非常に早く入力が基本的に間に合わないため放送としてはグダグダの結果になってしまいました。将棋系vtuberやyoutuberは改めて凄いと思いました。ただ、実況が上手く行かなかったのはツールの不備というよりは私の実力不足だと思うので今後とももう少しずつクオリティーを上げていきたいところです
↓ ディープ系ソフトに殴られてふてくされた中の人による黒歴史解説動画。基本的に私がテンパってる以外見どころがないのですが、orqhaにはおせわになりました、QQRも使ってましたなどのコメントいただけたのは本当に嬉しかったです。ありがとうございました。腹筋は割れてないです
大会は予選落ちしましたがそのおかげで明日は気楽に中継ができると思われます。リアルタイム解説は辛いので昼食休憩時に振り返り解説などになると思われますがお付き合いいただけると幸いです。結局2日目も勝ちたくなったり鯖が不安定だったりで全対局終わるまで中継できませんでした。申し訳ないです。あと2日目も見に来てくれた人、ありがとうございました!!
【おまけ】
今回のQPDの評価関数の強さ。オールラウンダー型の評価関数で定跡抜きでは2割程度の確率で飛車を振った上で水匠4に勝ち越すというかなり強い関数を用意できたのですが、大会では全然結果が出ませんでした。他ソフトがもっと強かったのか、長時間で弱かったのか、ディープとの相性の問題か、振り飛車が悪いのか......
第31回世界コンピュータ将棋選手権で変態将棋を指してみた件
第31回世界コンピュータ将棋選手権に参加された皆様、視聴してくださった皆様、誠にありがとうございます。QhapaqチームはMolQha-として参加して予選12位で敗退となりました。敗退して隠すこともなくなったので、大会を通じて色々考えたことを紹介していきたいと思います。
【新しいことに色々挑戦してみた】
電竜戦で振り飛車をコンセプトにして勝ったのに味をしめて(そして山崎A級の爆誕を祝って)本大会コンセプトは「変な将棋を指す」というものにしました。せっかくだから色々新しいものを作ってみようとyoutubeにチャンネルを立てたりもしてみました。
【変態将棋、全然勝てない】
解説動画でも簡単に述べていますが将棋AIの戦型を狙った形で分散させるのは簡単ではありません。手で定跡を作ろうとすると恐ろしい数の局面を入れなければならなくなりますし、かといって「後手の最初の2手は必ず34歩、44歩とする(四間飛車の典型ムーブ)」みたいな作りにすると、先手が「76歩、22角成(一手損、角交換四間飛車)」としてきたときに死んでしまいます。
こうした問題を解決するためにMolQha-の開発時間の大半は特定の戦型の少数の棋譜からその戦型を指しこなせるシステムの設計に費やしました。
そうした努力の甲斐あって、ある程度自動的に特定の戦型を研究できるシステムが完成。これで嬉野流や一間飛車を試しまくるぜヒャッハーと思った矢先。
これらの戦型が今の将棋AIだと全く勝てないことが判明します。どのぐらい勝てないかというと後手で勝率が3割を切る程度に勝てないことが発覚しました。
【変態将棋の何がいけないのか】
ここでは後手番の話に絞ります。というのも大会では試合の半数ぐらいは後手番になるわけですし、良い後手番の戦略が見つかれば先手番でも同じことができると期待できるからです。
様々な戦型を試した結果、後手番の勝率は初手34歩、84歩、32金以外の手を選ぶと激減(例えば初手42銀とか)することがわかりました。この3手以外の手を指してしまうと、先手番だけが一方的に飛車先の歩を交換することが出来てしまう(14歩? 知らない子ですね)からです。
それならいっそ嘘矢倉でもやったろうかと思いましたが、先手の角道が自由なまま後手の角道を閉じてしまうのも駄目なようです。なら振り飛車じゃとも思いましたが、振り飛車は水匠系列はともかく、たぬき、illqha系列に対しては異常に勝率が悪い(これも勝率3割弱)ことがわかりました。
そして色々試した結果として見つかった一番マシな戦略が初手94歩でした。初手94歩は先手番だけが一方的に飛車先の歩を交換することを可能とする手ではありますが、72銀や62銀に比べると勝率が5%ちょっと高い(後手番勝率は35%程度になる)ことがわかったのです。
これを元に先手の戦略も決めます。先手の初手16歩はWCSC29で妖怪惑星Qhapaqが使った技ではありますが、初手16歩だけだと角換わりの局面に一致してしまう可能性があります。変態将棋をやるためには2手パスを行うことで後手側に一方的に飛車先の歩を交換する権利を与えねばなりません。
というわけで、先手番では端歩を突き越してもらうことにしました。不思議なことにも、先手の歩の突き越しはNNUEミラーに於いては勝率が悪くない(55%前後)こともわかりました。
斯くしてMolQha-のコンセプトは「飛車先の歩交換よりも端の位」というものになりました。評価関数は様々な変態系で高い勝率を誇った電竜戦-tsecのtanuki-をベースに、後手番での勝率が高くなるような追加学習を施したものを使いました(まさか、コレがフラグになるとは
【ディープ、いうほど強いか?】
本大会の最大の注目株は深層学習(ディープラーニング)を使った将棋エンジンでした。なにせご家庭用のGPUでスリッパを使った既存エンジンを倒していたわけですから、本番の計算リソースではレート5000すら超える(今までの最強はせいぜい4500ぐらい)とさえ言われていました。
しかし、私はコレに懐疑的でした(電竜戦でgct、dlshogiと同盟を組みながら、美味しいところを持って行かれたことを根に持ってるという説もある)。というのも、floodgateで時々流れてくるgct+v100やらgct+a100がちょくちょく負けていたからです。
勿論、どんな強いソフトでも負ける可能性はあります。ただ、(AlphaZeroの論文などで描かれてるグラフなどから)補外されたa100利用時のレートに比べると統計的に無視できないレベルで負けていました。
R5000は出ない方に私は賭けていますが、果たしてそれが検証できるほどfgに駐在してくれるのか......(ドキドキ https://t.co/EoB1laKNAp
— Ryoto_Sawada🌗Qhapaq (@Qhapaq_49) 2021年4月19日
a100スーパーマシンgctがテスト終了したようですな。本番でどれだけ強くなるかはまだ未知数ですが、レート5000はないやろという読みについてはおじさんの勝ちでいいかな?
— Ryoto_Sawada🌗Qhapaq (@Qhapaq_49) 2021年4月20日
ディープ系列が長時間で強くならない理由として2つの理由を考えていました。ひとつは、探索過程で読んだ手をすべて覚えておかなければならない関係で深く読める量に限界があるということ。もう一つは、長い手数の良くない変化が見つかったときに従来エンジンはすぐに最善手を切り替えるのに対して、複数回ランダムプレイを行うことによる合議(に近いルール)で指し手を決めるディープ系列では長時間探索すればするほど、新しい手を受け入れにくくなることです(この問題は探索パラメタを弄ることで軽減はできるのだが)。
この予想は大会で大当たりとなるのですが、gct, dlshogiチームを始め多くの人が凄い時間と努力を積み重ねてディープ系列のエンジンを作っていることも知っていたのでなんとも気まずい感じになってしまいました。
【MolQha-自体の大会の雑な振り返り】
全体の成績は以下のようになりました(以下敬称略)
1.いちびん(先手、勝ち)
2.習甦(後手、勝ち)
3.二番絞り(先手、負け)
4.sakura(後手、勝ち)
5.Qugiy (先手、負け)
6.HoneyWaffle(後手、勝ち)
7.PAL(先手、負け)
8.koron(後手、引き分け)
9.elmo(後手、引き分け)
電王トーナメントでさんざん後手番ばかり引かされたことをネタにし続けた結果、すっかり先手番で勝てない体になってしまいました。また、本大会ではあるまじきミスをしてしまいました。それは負けたら予選突破が厳しくなる8,9試合目で千日手にならないようにする設定をミスった(8試合目は完全に忘れてた、9試合目はなんか設定をミスったっぽい)ことです。
クイズ:「?」に入る駒は何でしょう
答え:銀冠ではない
斯くしてMolQha-の挑戦は終わってしまいました。ただ唯一良かったこととして、変な将棋はいっぱいさせたと思います。今後共、コンピュータ将棋をよろしくお願い申し上げます。
第4回ABEMAトーナメントを祝しチームバナナがどのぐらいヤバかったかを振り返ってみる
将棋棋士がドラフト会議を行ってチームを作り、戦う。その秀逸なコンセプトにより第3回ABEMAトーナメントは大成功のうちに終わりました。そしてなんと嬉しいことに、2021年には第4回も行われます。将棋ヘッズであれば今頃チームメンバーの表を眺め、どのチームが勝ちそうかを予測していることでしょう。
本稿では第4回ABEMAトーナメント参加チームの勝率を予測するとともに、第3回トーナメントで全参加者に優勝候補と目されそのまま優勝した夢のチーム「バナナ」がどのぐらいやばかったかを振り返ってみたいと思います。
【勝率の予測方法】
コンピュータ上で大会ルール(予選リーグ、本戦トーナメントそれぞれ)に基づいてマッチングを行います。将棋棋士のレーティングサイトから各プレイヤーのレーティングを求め、試合の勝ち負けを各棋士のレート差に基づいて決定します。予選リーグでは得られる点数の期待値を、本戦リーグではチームが勝つ確率を計算します。各プレイヤーの出場順序はランダムで決めます。コンピュータ上で仮想のマッチメイクを10000回行うことで各々のチーム同士の勝率を求めます。
【第4回ABEMAトーナメントの予想優勝チームは......】
予選リーグの期待ポイント数、決勝リーグの勝率は以下になりました。
予選リーグの獲得点数期待値
本戦トーナメントでの勝率
というわけで優勝候補ナンバーワンはチーム豊島です。チームメンバー的にも4強の一角である豊島竜王を筆頭に長年高勝率を維持してきたメンバーが集まっているので納得の布陣と言えましょう。
しかし、この結果を受けて「よし、今年の優勝はチーム豊島だ」と断言してしまうとしたら、それは昨年のトラウマが抜けていないと言えましょう。レーティングで見た強さ3位以下のチームに6割以上の確率で勝つというのはたしかに強いのですが、このぐらいの有利は大会の調子でいくらでもひっくり返るのです。では、昨年圧勝したと言われるチームバナナはどんなもんだったのでしょうか
【アカン、これはアカンよ】
2020年の決勝進出チームを対象に当時のレーティングで勝率を計算した結果がこちらです。チームバナナ=永瀬です
ご覧ください。レーティングの上では2位だったチーム渡辺に対してでさえ7割の確率で勝つという圧倒的な火力を。圧勝とすら言われた前年度の優勝はレーティング1位と2位が一つのチームにいるという暴挙ドリーム構築をもってこそなのです。
【まとめ】
というわけで今年のABEMAトーナメントはどのチームが優勝するか正直読めません。というか去年が異常すぎたと言えましょう。
ああ、大会が今から楽しみだ!
将棋を知らない人にも話題を振りやすい棋士で打線を組んでみた
将棋ファンにとって将棋の布教は野望であり義務でもあります。しかし、観る将が普段楽しんでいるような将棋用語は、将棋を見ない人にはほぼ通じません。「この前の王将戦で軍曹が角換わりからの千日手をまたやったんだ」と嬉々として語ろうとも、聞き手の脳裏に千日手と言う単語が残れば良い方でしょう。私自身も将棋の面白さを友人に布教する上で幾度も悔しい思いをしてきました。
本稿で紹介するのは私自身が家族、友人、同僚、謎の留学生に将棋を布教し続けることで体得した将棋の布教術です。今回は布教の基本は人物伝ということで、話題にしやすい棋士をネットでおなじみの打線を組む形式で紹介していきます。私はswitchの聡太を未だに攻略しておらず、香川女流のコミケ本を持っていない末席観る将ではありますが、幾多ものプレゼンラップバトルを制してきた経験をここにぶつけてまいります。
それでは、「よろしくお願いします」
※:本稿はネタ記事です。また私の趣味がかなりでていることをご留意ください
1番(二): 加藤一二三九段
将棋布教打線はひふみんで始まる以外ありえません。将棋布教でひふみんを抜く奴がいたら「ウノの言い忘れに並ぶ凡ミスだ」とでも言ってやりましょう。1分間でみかんを3個食べたという謎の武勇伝、中学生で棋士になり授業にでられない彼のためにノートを届けてくれた同級生と結婚したというラブストーリー、将棋盤の位置が気に入らないと対局相手と揉めてくじ引きをした逸話など話題の引き出しが多種多様です。またバラエティーを始めとしたテレビの知名度が高いため、将棋の話をする雰囲気じゃなくなったときに容易に撤退できるという他のスタメンにはないスキルがあります。ひふみんが生涯愛した棒銀の弱点は攻めが失敗したときに銀の扱いに困ることだというのに
2番(一): 香川愛生 女流四段
このダイバーシティの時代に女流棋士を入れ忘れるのはチョンボに等しい重罪です。布教の観点からみた香川女流の強みは才色兼備に立脚した圧倒的な待ちの広さです。コスプレ、コミケ参加、女流タイトル経験者、クイズ番組出演、ドラマ出演、ゲーム化、社長就任と、この世界の森羅万象に食い込ませられるだけの持ち駒を持っています。森羅万象番長です。他の棋士との話題広げやすく、女流棋士ならテレビでの共演歴がある竹俣紅女流初段、コミケなら一緒にコスプレをやらされた糸谷八段とこちらも手数に困りません。ドルオタと思われても困るので香川女流の話を長くするのは個人的には避けたいのですが香川女流の話題を握り込んでおくと、赤ドラを持っているかのような安心感が得られます。
3番(中): 羽生善治九段
人類史上最も有名な将棋プレイヤーと言っても過言ではないでしょう。将棋盤が9x9であることや飛車と角のどっちが右側かよりも有名なのは勿論のこと、下手したら桂馬や角よりも有名かもしれません。羽生九段ぐらいのバリューがあれば「羽生善治はAI将棋をどう考えているのか」など直接将棋の話に持っていくことすら許されてしまいます。これが「深浦将棋はなぜ地球を代表できるのか」とかだったら「そもそも深浦って誰」となってしまいます。私としてはこっちのほうが聞きたいぐらいですが、悲しいかな、知名度は大事なのです。おもしろ方面の逸話も(奥様の協力もあって)レパートリー豊かです。個人的には盤面に没頭しすぎてアイスを溶かした話や、何故かチェスで日本一になったことがある話などが使いやすくて好きです。ジャニオタと思われても困るのだが嵐にしやがれのクイズデスマッチに辛勝して「大分手加減してもらった」と正直に言っちゃう話も好き
4番(左):藤井聡太二冠
今の将棋界の頂点です。藤井二冠の話題を提供できない将棋布教者なぞエラのない魚も同然です。藤井二冠を布教する最大のメリットは直接将棋を観ることをオススメできることです。4年連続で勝率が8割を超えている、史上最年少タイトルを達成しているなどの逸話を餌に「今から藤井ファンになれば推しが勝ちまくる姿を見られる」と断言できるのは令和最強の棋士ならではでしょう。勿論、布教の際にはおもしろエピソードも用意しておきましょう。初心者向けの将棋サイトに異常な難しさの詰将棋を提供したこと、色紙の偽物が出回り警察から問い合わせを受けた際に「持ち駒の数が違うから偽物です」と看破したこと、師匠が色紙の詰将棋のネタに困っていたときに「一題提供しましょうか」と冷やかしたことなど、詰将棋周りが使いやすくておすすめです。まあ、その詰将棋の大会も五連覇とかしてるんだが
5番(右):木村一基九段
将棋界で最も愛されているおじさんです。将棋を観ない人が木村九段を知っている確率はその人が石鹸を漢字で書ける確率とほぼ変わらないでしょう。しかし、七度目の挑戦にして悲願の初タイトルを手にした時の物語は予防接種並みの確率で一度話せば覚えてもらえます。なにせ最終戦の陣屋での現地解説は、羽生、藤井が絡むようなビッグタイトルを超え、史上最大の入場者を叩き出すぐらいファンから愛されているのです。タイトル奪取の瞬間なんてファンたちが解説場で泣き出すぐらいファンから愛されているのです。なんなら私もネット越しに泣きました。この物語には将棋は強さだけじゃないということを伝える力があります。そして、ファンに愛されるだけの面白さと真摯さを木村九段は持ち合わせています。木村九段のトークの面白さはファンには有名ですが、視ない将相手にするなら、大判解説で「藤井さんはベテランの人が、そろそろ間違えるころだろうと考えたことはありますか?」と藤井二冠に無茶な質問をした逸話あたりが使いやすいです。
6番(指):永瀬拓矢王座
今の将棋の四強の一人にして、とりあえず「根性」を見せておけば最低限の笑いが取れるという安定感があります。将棋棋士がどれだけ将棋が好きかを紹介する上でもこの上ない人材です。大晦日に連続で9試合を行って年を越した挙句、終電がなくなったから朝まで誰か将棋やりませんかと解説の人を誘ったとか、毎日10時間ぐらいやれば誰でも棋士になれると豪語したなど逸話の枚挙に暇がありません。永瀬王座の布教をするときには川崎屋の布教をするのも忘れないようにしましょう。
7番(三):先崎学九段
うつ病九段を読め。電子書籍が擦り切れるほど読め。宗教の歴史が示すように、布教を成功させるにはインテリの取り込みが不可欠です。そしてインテリに将棋を刷り込む上でうつ病九段は最強の本です。東大の学生保健センターにいくと精神科はメチャクチャ充実してます。どうか察してあげてください。うつ病九段は、頭脳労働者がうつから復活するというだけの本ではありません。作品の至るところに将棋への思いが散りばめられています。この本に感動した東大生が将来官僚になった暁には、将棋文化の維持に力を貸してくれること間違いなしでしょう。将棋なんてAIが人間を超えて終わった遊戯と嘯く輩に将棋の深さを叩き込んでやりましょう。
人は必ずしも良い話だけを聞きたいわけではありません。将棋布教にちょっとブラックな要素を入れたいとなれば、米長永世棋聖は外すことが出来ません。会長再就任の際の写真をダブルピースにしたという強烈なエピソードをしても、米長伝説ではギリギリ補欠に入るか入らないかぐらいでしょう。カッコイイところで言えば自分にとって消化試合でも相手を全力で負かしにいく米長哲学、解りやすいところで言えば、数えるのもバカバカしくなるぐらい沢山ある全裸系の話。よりブラックなところにいくなら株で有名な桐谷先生との話やマグロ名人戦におけるネットバトルとかが良いでしょう。編入試験や人間 vs AIのコーディネータとしての腕前も素晴らしく、われ敗れたりもまた人に勧めたい名著です。まあ、個人的に一番好きなエピソードは天国の「米長先生」と言われるたびに「地獄定期」というレスポンスが何処からともなく帰ってくることだが
9番(投):渡辺明名人
現名人です。観ない将の人たちは中学生棋士のことを教皇と似たようなものだと思っているフシがあるので「藤井聡太の先代、羽生善治の次代の中学生棋士だよ」と紹介すると話が通りやすいです。中学生棋士の中で唯一ブログをやっており、奥様の漫画を通じても将棋に対する考え方を色々語ってくれています。渡辺名人を通じて将棋を普及する際のコツは、将棋や渡辺名人ではなく、将棋の渡辺くんを売ろうと考えながら語ることです。「4人目の中学生棋士にして今の名人なのだが奥様が書いている漫画がめっちゃ面白い。具体的には...」という枕詞を練習すれば貴方も立派な宣教師です。ちなみに文春砲周りの話はブラックな話題が好きな人にも全く受けません。完全に私情ではありますが、私は一致率のチェックにQhapaqを使ってくれてなかったことを少しだけ根に持っています
【最後に】
というわけで、本稿では一般人に話題を振りやすい棋士を紹介してみました。将棋ファンであれば打線に漏れた方々についても無限に語らうことができることでしょう。例えば新聞の話題がでてきたなら「深浦九段がタイトルを取ったときには地元で号外が出た」とか「菅井八段は対局の際は未だに岡山から未だに通っており、岡山の新聞も藤井フィーバーだろうが何だろうが菅井八段の話題を優先して報道する(ソース紛失)」とか「香川番長は社長として日経新聞にでたことがある」とかとか。
好きなことを語る上でルールなんてありません。ただ、布教をするからには信者を増やしたいのもまた真理です。本稿が皆様のハッピー将棋布教ライフのちょっとした手助けになれば幸いです。
AIの台頭で将棋研究が本当に加速しているのかデータから検証してみた
「将棋はAIを使って研究する」
2000年頃にはありえないとさえ言われたAIによる人間超えは2010年代にかけて達成され、今となってはプロアマ問わずAIを使った将棋研究が当たり前になりつつあります。
AI以前の将棋研究は一つ一つの局面/変化を人間が時間をかけて検討しなければならなかったのに、今となってはAIを使えば数分で検討が出来てしまいます。その結果、丹精込めて作られた戦略も一度棋譜に残してしまえば一晩で対策されてしまうようになりました。
ポストAI時代の将棋研究については若手からベテランまで多くの記事を残しています。そして、多くのケースにおいて「AIにより将棋研究は加速した」と考えられています。
しかし、本当にAIの台頭で将棋研究は加速したのでしょうか。本稿ではデータからポストAI時代の将棋研究がどの程度早くなったのかを測定してみたいと思います。
【局面のユニークさから見る将棋の戦略の寿命】
本稿では局面のユニークさから戦型の寿命、すなわち将棋研究の速度を測定します。将棋における戦型のブームはおおよそ以下の流れを取ると言われています(参考:将棋の渡辺くん)
1.棋戦で使われ棋譜に残る
2.多くのプレイヤーがそれを真似る
3.その過程のなかで様々な変化が試される
4.変化が試されきって閉塞感が出たあたりでブームが終わる
プロ棋士が各々の戦型についてどういう考え方をしているかを棋譜から読み取ることは困難です。しかし、ブームが終わった局面は棋譜に現れなくなることを利用すれば局面の出現頻度から衰退の速さを測定することが出来ます。
例えば、ある戦型が流行してから研究されきってプロの棋譜にでてこなくなるまで昔は3ヶ月かかったとしましょう、これが今は1ヶ月ででてこなくなるとしたら研究速度は3倍になったと言えます。
戦型のブームには大小や当たりハズレがある(例えば角交換四間飛車や角換わり48金は息が長い)上に複数の戦型が並行して流行り廃れるので戦型毎の解析を行うのは困難です。そこで、本稿では以下の定義でその年の将棋の研究速度を定義します。
1. 各年のプロ棋士の棋譜からランダムに100局を選択し、その中の初手30手を対象とする
2.重複していない局面の数をその年の将棋の研究速度とする
これは、研究速度がn倍になれば、一定期間ごとに使われなくなる局面の数がn倍になる、使われなくなる局面の数がn倍になればユニークな局面が増える速度もn倍になるという仮定に基づいています。
【1.3倍の加速からみる将棋の変化】
さて、上記の評価に基づいて年代別のユニークな局面数をプロットした結果は以下のようになります(図の注釈の意味については後述)
コンピュータが人間を超える前の2000年前後を極小に、ユニークな局面数はほぼ右肩上をしていることがわかります。そして、おおよそ平均すると、今の将棋の研究速度は1.3倍になったと言えます。
プロ棋士が何時間もかけて考えたであろう変化を数分で追えるようになったポストAI時代にしては1.3倍というのはずいぶん少ないような気もします。しかし、私はこの指標はいい線をついていると思っています。というのも、今の時代にもAIに頼らずに将棋を勉強しながら第一線で居続ける棋士が複数いるからです。AIの台頭によって本当に将棋の研究速度が何倍、何十倍にもなるのであれば、ソフトを使わない棋士に勝ち目は残らないでしょう。
さて、この結果を受けて私は、局面の良し悪しを評価する作業にかかる時間が桁違いに減ったにもかかわらず、研究速度が1.3倍にしかなっていないというのはプロ棋士がサボってるからなのではないかと一瞬思ってしまいました。ですが恐らくこれは間違いです。というのも、プロ棋士は局面を評価解析した上で、それを覚え、理解し、使いこなせるようにならなければいけないからです。
先程の結果から、プロ棋士が対局と対局の合間に覚えてくる変化の数が1.3倍程度になったことが示唆されています。すなわち、他の作業にかかる時間はどうあれ、プロ棋士は今までの1.3倍の時間をかけて変化を覚えているといえます。ここで、プロ棋士の研究時間を局面を理解して覚える時間とそれ以外の時間に分けてみましょう。AIの台頭により局面の解析にかかる時間は桁違いに減ったことを鑑みると以下のように表すことが出来ます。
AIの台頭によってプロ棋士がどのぐらい忙しくなったかは研究におけるX、即ち局面を評価する時間によります。例えばXが研究時間の半分を占めていたなら、ポストAI時代のプロ棋士の勉強時間は以前の65%程度になったと言えるし、逆にXが元から割合として小さいのであれば、ポストAI時代のプロ棋士の勉強時間は以前の1.3倍になったと言えます。
となれば、Xの値が知りたいわけなのですが、私自身は元々ほぼ0であったのではないかと考えています。というのも、AI以前の将棋では局面の評価とは様々な変化を自ら試し、覚えながらやるものであったと推察できるからです。AIの台頭によりユーザが望むのであれば様々な変化を提示/評価してくれる部分はアウトソース出来ますが、その意味を理解し覚える部分は人間がやらねばなりません。つまりこういうことです
本モデルの正しさを担保する量的な証拠は正直ありません。ただし、今なお将棋ソフトを使わずに研究している棋士が第一線にいることや、多くの将棋棋士がソフトの評価を観るだけでは強くなれないだろうことを示唆していることを鑑みると悪くない予想であると考えています。
本予想に従えば、プロ棋士の研究時間は1.3倍になったと予想することが出来ます。例えるなら、週休2日が週休半日になるようなもので、そりゃ評価値ディストピアとも言いたくなりますわな。
私が考えるAIがもたらしたもの、それは研究の上限の撤廃です。AI以前の時代なら「これ以上考えてもこの局面の良し悪しは解らないので後は指して試すしかないな」といえるような局面もAIが結論を出してしまうが故に無限に研究できてしまうのです。
【研究からみる将棋の歴史】
局面のユニークさを評価としたグラフはもういくつかの面白い示唆をもたらしてくれています。まず、1970年代頃の将棋は今の将棋と同じぐらい多様性に満ちていたということです。これは昭和時代の棋士が滅茶苦茶研究していた......のではなく、逆に研究をあまりしていなかったからであると考えられます。
しかし、1970年の中盤から1980年にかけて局面のユニークさは急激に減ります。これをもたらしたのは勿論、羽生世代......ではなく、中原、米長、加藤(ひふみん)あたりの時代です。即ち、中原研究会、米長道場、島研究会が出てくるあたりの時代です。研究会によって有力な序盤戦略が進み多様を極めた序盤戦略が淘汰された時代です。こうして振り返ると、世代や出身の垣根を超えた研究会という概念が如何に将棋界にパラダイムシフトをもたらしてきたかがわかります。
さてもう一つ、2010〜2014年近辺にも多様性が減った時代が一時的に現れています。これは恐らく横歩ブームによるものと思われます。21世紀のプロ棋士の戦型の分布を見てみると以下のようになっています。
ご覧の通り、2010〜2015年頃にかけて横歩が流行しているのがわかります。横歩は盤上この1手な局面が多く、横歩が流行ればユニークな局面が減るというのは感覚的にも妥当なものと思われます。さて、この時代の横歩のマイスターと言えば佐藤天彦九段。名人戦、叡王戦でも活躍し、その横歩研究はコム将棋界にも大きな影響(横歩定跡による殴り合い)をもたらしました。氏は今のAI将棋時代を評価値ディストピアと名付けたことでもちょっと知られていますが、第二のブームを引き起こすことで再び将棋研究に大きな風穴を開けてくれることを願っています。
【まとめ】
本稿では将棋研究の速度の年代別の変化を測定し、今の将棋のブームの移り変わりの速度は2001年頃に比べて1.3倍程度になったことを示しました。また、その歴史的な変化を見ていくことで研究会文化の影響や横歩ブームの存在を見て取ることが出来ました。
将棋の進化は今後も止まることはないでしょう。将棋指しは年々強くなり続けていますし、将棋ソフトにもまた、さらなる進化をもたらしていくつもりです。
雨後の筍のようにAIが騒がれる時代。他よりひと足早くシンギュラリティを迎えた将棋界は未来の試金石でもあると考えています。コム将棋の発展が将棋界全体に役に立ってくれることを願ってやみません。