豊島棋聖と永瀬七段の強さの秘訣をAIに聞いてみた

将棋星人が攻めてきたら地球代表を誰にするか。この問に「豊島棋聖」と答えると「こいつ将棋通だな」と思われることでしょう。というのも、豊島棋聖は非公式の棋士レーティングに於いて長らく頂点に君臨し続けているからです。

豊島棋聖は長きにわたって勝ち星を積み重ね続けていますが、その棋風は掴みどころが難しく、あえて言うなら「最後は勝ってしまう」(豊島の将棋 実戦と研究 (マイナビ将棋BOOKS)より)「序盤中盤隙がない」と評されるぐらいです。

そこで今回は次世代の将棋星人である豊島棋聖の強さの秘訣を将棋ソフトを使って解析してみます。

 

【評価方法】

評価値毎の悪手率(手を指す前の評価値と後の評価値の差から求められる悪い手を指す確率)を計算しています。粘り強さが重要となる劣勢局面での悪手率、研究の深さが重要となる互角局面での悪手率、詰めの腕が重要となる優勢局面での悪手率を比べることでプレイヤーの棋力を可視化していきます。詳細は中学生棋士のレーティング考察をご覧ください。

今回は豊島棋聖、豊島棋聖の対戦相手(の平均)に加え、ソフト同士の1手1秒の自己対局、レーティング3位で負けない将棋に定評がある永瀬拓矢七段の解析を行いました。

解析は最新のQhapaq(レーティングサイト基準でレート4300超)で行っています。

 

【勝ちが見えた局面での差し回しが大事】

以下に豊島棋聖、永瀬七段、その対局相手、ソフト(nnue)の自己対局の悪手率を示します。横軸が手を指す前の評価値、縦軸が悪手を指す確率(厳密には手を差した前後での評価値の減少分の平均)です。端的に言って低いほど強いです。

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結果を比べると豊島棋聖、永瀬七段ともに、対局相手に比べ、勝ちが見えている局面(評価値0-2000程度)での悪手率の低さが目立ちます。有利な局面での差し回しの正確さがレーティングと強い相関を持つという結果は 中学生棋士のレーティング考察と同じです(注:解析ソフトを変えたので豊島棋聖/永瀬七段と中学生棋士定量的な比較をすることはできません)。

豊島棋聖はソフトと比較しても0〜200点程度の序盤の差し回しが正確であること、永瀬七段は評価値が悪い局面全体での粘りが特に優れて居ます。さすがは負けない将棋。

 

【ソフト指しをしても勝てない豊島/永瀬将棋の恐ろしさ】

「ソフトや検討の言うとおりに局面が進んだのに気がついたら決着が付いている」という展開は今のソフトをもってしても起こることです。そこで、各プレイヤーについて「解析ソフトと手が一致した局面だけ抽出した悪手率」を計算してみました。普通に考えれば全てのプレイヤーの結果は同じになるはずです。が、しかし......

 

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豊島棋聖/永瀬七段の対局相手の悪手率の分布はソフトと同じような結果になっている一方で、豊島棋聖/永瀬七段の悪手率は他よりも低くなっています。これはソフトが推奨する手(≒悪手でない自然な手)を指すことで良くなりやすい局面に相手を誘導できているからであると考えられます。

 

【考察】

上位棋士の強さの秘訣が有利な局面で間違えないことにあることが改めて確認されました。加えて、ソフトの言う通りの手を指しても評価値が悪くなりやすい局面へ相手を誘導する序盤の構想力が求められていることが示唆されました。

 

【筆者のポエム】

将棋ソフトは大体の局面で99点程度の手を指すことができるし、終盤は基本間違えません。それ故に、嘗て神の一手と言われるような手は減りつつありますが、ソフトからすれば人間が生み出した定跡こそが神の一手だと思います。

 

【最後に宣伝】

マイナビ 将棋神 やねうら王にQhapaqも搭載されます。対局相手のレベル調整や考察向けの機能など、将棋ソフトを使い尽くす上で便利な機能が搭載されています。やねうら王はたぬきやQhapaqなどの上位ソフトや、将棋ソフトを使って棋譜解析を行っている有志にも用いられており、今後もどんどん機能が追加されていくと思われます。是非、検討していただければ幸いです(そして、仮に購入するならこのリンクから買うのです。買うのです......多分sdtでQhapaqがちょっと強くなります)

 

技術書典5に出ます。サークル名は河童2.0です。ソフトを使った棋風解析や最近のNNUE関数の学習方法について何かを述べるつもりです(そう、まだ何もできていないのだ)。